経営者のための労務管理
~従業員とのコミュニケーションのポイント~
中小企業の経営において、従業員との良好なコミュニケーションは「人間関係の問題」にとどまらず、労務トラブルの防止や生産性の向上、そして企業の持続的な成長に直結する大切な経営課題です。
近年は、働き方改革やハラスメント防止法の施行により、経営者の皆さまには従業員とのコミュニケーションに関する法的責任も求められるようになりました。
これまで多くの中小企業をサポートしてきた経験からも、コミュニケーション不足が原因で発生する労務トラブルは決して珍しいことではありません。
本コラムでは、経営者の皆さまに押さえていただきたい「コミュニケーションの基本原則」と「実践的な取り組み方」について、わかりやすくお伝えしてまいります。
2020年6月に施行された改正労働施策総合推進法により、企業にはハラスメント防止措置が義務付けられました。
特に注意したいのは「業務上の指導」と「パワハラ」の境界線です。経営者としては、人格攻撃と受け取られないように、建設的で前向きなフィードバックを心がけることが大切です。
労働基準法第15条では、雇用契約時の労働条件の明示が義務付けられています。加えて、契約後に労働条件を変更する場合も、従業員への丁寧な説明と話し合いが欠かせません。
賃金体系の変更や勤務時間の調整、配置転換などは、一方的な通達ではなく、十分なコミュニケーションを経て進めることが、トラブル防止につながります。
会社の業績や将来の方向性、制度変更などは、適切なタイミングで共有しましょう。「知らせない方が良い」という姿勢は、かえって従業員の不安を招きます。
一方通行の伝達ではなく、従業員が意見を出しやすい仕組みを整えることが重要です。定期的な面談や意見箱、アンケートなども有効です。
従業員一人ひとりの状況に応じた対応も大切です。子育て中や介護を抱える方、外国籍の従業員などには、それぞれに合ったサポートが求められます。
年1~2回の面談は信頼関係を深める良い機会です。業務評価にとどまらず、キャリアの希望や悩みを聞き、会社の方向性とのすり合わせを行いましょう。
挨拶やちょっとした労いの言葉など、日々の何気ない会話が最も大切です。良い取り組みを見つけたときに具体的に褒めることは、大きなモチベーションにつながります。
トラブル時は感情的にならず、事実確認を丁寧に行い、公平に話を聞くことが第一歩です。その上で、解決に向けた具体的な行動計画を示し、フォローアップを欠かさないようにしましょう。
従業員とのコミュニケーションは、経営者にとって欠かせない経営スキルのひとつです。法律を守るだけでなく、一人ひとりと真摯に向き合うことで、強い組織づくりへとつながります。
改善には時間がかかりますが、継続して取り組むことで必ず成果が見えてきます。信頼関係を基盤にした経営によって、持続的な企業成長を実現していただければ幸いです。
労務管理やコミュニケーションに関してご不明な点がありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。弊所では連携する専門家とともに、御社に最適なアドバイスをご提供いたします。