手形・小切手の支払からの切り替えはお済ですか?

~下請法改正を踏まえた中小企業の実務対応~

はじめに 「手形廃止」は資金繰りと取引条件の見直しの合図

2027年3月をもって、紙の手形・小切手による支払・決済は、実務上ほぼ利用できなくなります。

この動きは単なる決済手段の変更ではなく、下請法改正や運用強化による「支払サイト短縮」の流れと密接に関係しています。

中小企業の経営者にとっては、

  • 資金繰りへの影響
  • 取引先との支払条件の見直し
  • 社内の経理・事務フローの変更

など、経営に直結するテーマです。

本コラムでは、手形・小切手廃止の背景と、下請法を踏まえて中小企業が今から備えるべき実務対応について、税理士の立場からわかりやすく解説します。

なぜ手形・小切手は廃止されるのか 下請法との関係

手形・小切手が見直されている背景には、次のような事情があります。

  • 発行・管理にかかる事務コストが高い
  • 紛失・盗難・不正利用のリスクがある
  • 長期の支払サイトが下請事業者の資金繰りを圧迫してきた
  • 企業間取引のデジタル化(DX)が進んでいる

特に重要なのが、下請法の運用強化です。

下請法では、下請代金の支払期日は「原則として60日以内」とされています。

これまで、手形による90日・120日といった長期サイトの取引は、形式上は認められてきました。しかし現在では、「形式的に合法でも、望ましくない取引慣行」として、見直しを求められるケースが増えています。

こうした流れを受け、政府や金融機関は、振込や電子記録債権(でんさい)への移行を明確に打ち出しており、2027年3月はその移行期限の目安とされています。

中小企業への影響① 支払サイト短縮と資金繰り

手形廃止と下請法対応が重なることで、支払サイト短縮は避けられない流れとなっています。

これまで手形で回っていた取引を、振込やでんさいに切り替える場合、

  • 支払条件の変更を求められる
  • 実質的に支払が前倒しになる

といった影響が生じます。

下請の立場では入金が早まるメリットがありますが、発注側・元請の立場では、運転資金への影響が大きくなる可能性があります。

そのため、単なる決済手段の変更にとどまらず、支払サイト短縮後のキャッシュフローを前提にした資金繰り管理が重要になります。

中小企業への影響② 取引条件・契約書の見直し

下請法の観点では、「今までこうしてきたから」という理由で、長期の支払サイトを続けること自体がリスクになりつつあります。

特に発注側企業は、

  • 契約内容が下請法の趣旨に反していないか
  • 実際の支払条件と契約書の記載が一致しているか

を確認しておく必要があります。

契約書や覚書に「手形支払」「〇日サイト手形」と記載されている場合は、2027年を待たずに、条件変更や文言修正を検討することが望ましいでしょう。

実務と契約内容のズレは、下請法違反の指摘や、取引先とのトラブルにつながるおそれがあります。

中小企業への影響③ 経理・事務フローの変更

手形廃止により、

  • 手形管理台帳
  • 期日管理
  • 銀行への持込業務

といった作業は不要になります。

一方で、

  • 振込データの作成
  • でんさいの発生・消込管理

など、新たな業務が発生します。

下請法対応の観点からも、「いつ発生した取引に対し、いつ支払ったのか」を説明できる体制づくりが重要です。属人的な処理に任せず、業務フローを整理・可視化しておくことが求められます。

手形に代わる決済手段 でんさいと振込の使い分け

でんさい(電子記録債権)は、紙の手形に近い商慣行をデジタル化した仕組みで、譲渡や分割が可能です。

一方で、支払期日の設定については、下請法の趣旨を踏まえた慎重な運用が必要です。

振込は支払期日が明確で、即時性が高く、下請法との親和性が高い決済手段といえます。

取引先の規模や業種に応じて、でんさいと振込を使い分けることも現実的な対応策です。

今からやるべき3つの実務対応

① 手形取引・支払条件の棚卸し

どの取引で手形・小切手を使っているのか、支払サイトは何日かを整理します。下請法の対象取引かどうかも確認しましょう。

② 支払サイト短縮を前提とした資金繰り試算

支払が前倒しになった場合の資金繰りを試算し、必要に応じて金融機関への事前相談を行います。

③ 取引先との早期協議

「法改正対応」という共通認識を持ったうえで、早めに条件変更を協議することで、トラブルを防ぐことができます。

おわりに 制度対応を経営改善につなげる

手形・小切手の廃止や下請法対応は、短期的には負担に感じられるかもしれません。
しかし、取引条件や資金管理を見直すことで、

  • 下請事業者との信頼関係強化
  • キャッシュフロー経営への転換
  • 金融機関からの評価向上

といった効果も期待できます。

制度対応を経営管理を一段引き上げる機会として活用することが重要です。

2027年3月は、準備を進めてきた企業と、直前対応となった企業との差が、はっきりと表れる節目になるでしょう。