【銀行員の皆さまへ】建設業融資における税務・経営支援のワンポイントアドバイス


はじめに ~建設業融資には“業界特有の視点”が必要です~

建設業は、製造業やサービス業とは異なる独自の事業構造を持っています。

工期の長さや受注生産型のビジネスモデル、キャッシュフローの特徴など、財務や経営の実態を正しく把握するには、そうした業界特性を理解することが欠かせません。

本稿では、銀行員の皆さまが建設業のお客様と向き合う際に押さえておきたい視点を、税務と経営支援の観点からご紹介いたします。

建設業の財務諸表を見るポイント

売上計上の基準に注意しましょう

建設業の売上計上には「工事完成基準」と「工事進行基準」の2種類があり、会社ごとの採用基準により数値の見え方が大きく異なります。

工事完成基準を採用している企業の特徴

  • 工事が完了した時点で売上を一括で計上するため、売上や利益に期ごとの波があります
  • 大型工事の完成が期末に重なると、急に利益が膨らむことも
  • 工事途中の分は、貸借対照表上「仕掛品」として資産計上されます

工事進行基準を採用している企業の特徴

  • 進捗に応じて売上を計上するため、売上の推移は比較的安定します
  • 進捗率の算定方法によって利益が変動するリスクも
  • 「未成工事受入金(前受金)」の推移に注目すると、資金の流れが見えてきます

貸借対照表で見るべき項目

仕掛品(未成工事支出金)の妥当性

  • 売上に対して仕掛品が過大ではないか
  • 長期間変動のない仕掛品は、不良債権化のリスクも
  • 工事ごとの原価がきちんと管理されているかを確認

売掛金・完成工事未収入金の回収状況

  • 建設業では回収期間が長くなりがちです。月商との比較で評価を
  • 特定の発注者への依存が高くないか(債権の集中度)
  • 長期滞留債権の有無と、その回収可能性にも注意しましょう

建設業のキャッシュフローを読む

建設業では、工事の進捗に応じた分割入金が一般的です。

そのため、工事の初期段階では支出が先行し、後半で収入が増える構造となります。

主な収入のタイミング

  • 着手金(工事開始時)
  • 中間金(進捗に応じて)
  • 完成金(引渡し時)

主な支出のタイミング

  • 材料費は初期に集中
  • 外注費は進捗に応じて発生
  • 労務費は期間中継続して発生

こうした収支のズレを見越して、資金繰りを予測・支援することが大切です。

経営支援に活かせる資料と指標

資金繰り予測には「受注工事一覧表」が有効です

以下の情報を一覧でまとめておくと、今後の資金計画が立てやすくなります。

  • 工事名・発注者・契約金額
  • 着工日・完成予定日
  • 入金予定(着手金・中間金・完成金)
  • 主な支払予定(材料費・外注費など)

建設業における経営健全性の目安

  • 完成工事総利益率(粗利率):15~25%が一般的。10%未満なら注意が必要です
  • 手持工事高:月商の3~6か月分が適正。多すぎる場合は施工能力の超過も懸念されます
  • 工事別の採算管理:不採算工事の早期把握と、原価管理体制の整備が重要です

労務管理・法令遵守もチェックを

  • 社会保険の加入状況:未加入企業は現場に入れないルールも。協力業者への指導状況を含めて確認を
  • 建設業許可と経審(経営事項審査):許可業種と施工実態の整合性、評点推移や技術者の配置にも注目しましょう

融資と経営支援のヒント

目的別の融資商品選択

  • 運転資金:工事着手から初回入金までのタイムラグをカバー
  • 設備資金:建機や車両など、融資期間と償却期間のバランスを
  • つなぎ資金:代金回収までの資金不足に備える短期的な支援

経営改善へのアプローチ

  • クラウド会計や原価管理システムの導入
  • 月次での試算表確認と収支予測
  • 入金・支払条件の見直し支援
  • 事業承継やM&Aのサポート

リスク管理と“兆候”の見極め

財務面の注意点

  • 売掛金の回転期間が急に長くなる
  • 仕掛品が膨らむ
  • 借入依存度が高まる など

事業面の注意点

  • 主要顧客の経営不振
  • 不採算工事の続発
  • 熟練技術者の大量退職 など

これらの兆しが見えたら、早期に改善計画の策定・実行支援を行いましょう。

今後の成長機会を支援する

建設業界では、デジタル化や環境対応、働き方改革など新たな投資ニーズも増えています。

  • ICT・DX:ドローンや3Dスキャナー等の導入支援
  • 省エネ・環境配慮:電動建機や認証取得への支援
  • 働き方改革:人材確保・定着を目的とした設備投資

おわりに

建設業は、地域社会のインフラを支える大切な業種です。

その事業構造や資金の流れを正しく理解し、単なる融資にとどまらない“伴走支援”を心がけることが、企業と地域経済の発展につながります。

皆さまのご支援が、建設業界の未来をより良いものにしていくと信じております。