税理士に聞く


~「価格転嫁」のお悩み、どう解決したらいい?~

はじめに

原材料の値上がり、人件費の上昇、光熱費の負担増…。経営者の皆さまにとって、コストの増加は今まさに頭を悩ませる課題ではないでしょうか。

「値上げをしたいけれど、取引先にどう話したらいいのか分からない」

「お客様が離れてしまったらどうしよう」

そんな不安から、コストアップを自社で吸収し続け、利益を圧迫してしまっている企業さまも多くいらっしゃいます。

でも、適切な価格転嫁は、会社を守るためにとても大切なこと。

今回は、税理士の立場から、価格転嫁をスムーズに進めるための考え方や準備の仕方を、やさしく解説いたします。

なぜ「価格転嫁」が必要なのか?

価格転嫁は決して「強気な値上げ交渉」ではありません。

むしろ、今後も安定してサービスや製品を届けていくために欠かせない、“お互いの信頼関係を守るためのお願い”でもあります。

● 会社の未来を守るために

コスト増加をそのままにしていると、気づかないうちに利益が減っていきます。そうなると、設備投資ができなくなったり、資金繰りが不安定になったり…。中長期的に見ると、経営そのものを危うくしてしまうこともあるのです。

● 従業員の雇用と処遇を守るために

利益が減れば、人件費を削らざるを得なくなることも。

がんばってくれている社員の皆さんに、安心して働いてもらうためにも、価格転嫁で適正な利益を確保することがとても大切です。

● 品質やサービスを落とさないために

「価格はそのまま、でもコストは増えている」そんな状況では、品質やサービスにもしわ寄せが出てしまいます。長く選ばれる会社であり続けるためにも、“適正価格で価値を届ける”という意識が必要です。

税理士がすすめる「価格転嫁」の進め方

1. まずは“数字”で説明できる準備を

価格転嫁の話し合いでは、感覚的な説明では相手の理解を得るのが難しくなってしまいます。

「どれだけコストが増えたのか」を、具体的な数値で示すことがとても大事です。

たとえば…

  • 原材料費が前年比で15%アップ
  • 最低賃金の引き上げで月○万円の人件費増
  • 電気代・ガス代が1年前より30%増

こういった“見える化されたデータ”があるだけで、ぐっと説得力が増します。

2. 原価管理を日常の習慣に

価格転嫁の準備には、日ごろの原価管理が欠かせません。

たとえば、

  • 材料費(主な資材ごと)
  • 人件費(直接作業と間接部門に分けて)
  • 製造経費や販売管理費
  • これらの月別・年別の推移

を把握しておくことで、「なぜ今、価格を見直さなければいけないのか」を、冷静かつ客観的に伝えることができます。

手作業で管理するのが難しいと感じたら、会計ソフトや原価管理ツールを導入するのもおすすめです。リアルタイムでの原価の把握や、商品別の利益率の分析などが、よりスムーズにできるようになりますよ。

3. 資料づくりは“伝わる工夫”を

交渉用の資料は、数字だけでなく「見せ方」も大切です。

  • グラフや図を入れて視覚的に
  • 業界全体の価格動向と比較して
  • 自社が努力してきたコスト削減の取り組みも紹介
  • 値上げをしない場合に起こりうるリスクも説明

こういったポイントを押さえることで、相手も「一緒に考えてくれている」と感じやすくなります。

段階的なアプローチで、信頼関係を守る

いきなり「来月から値上げします!」では、相手も構えてしまいます。

3つのステップに分けて、丁寧に進めていきましょう。

Step1:まずは情報共有から

  • 最近のコスト増加について、お互いの状況を確認
  • 経営環境の変化や将来の見通しについて意見交換

Step2:次に具体的な提案

  • 値上げ幅や時期をわかりやすく提示
  • 代わりに提供する新しい価値(納期短縮、サポート強化など)も明示
  • 契約内容の見直しや支払条件の変更など、代替案も提案

Step3:最後は合意形成

  • 相手の不安や疑問にも丁寧に対応
  • 双方が納得できる着地点を見つける
  • 書面での確認を行い、後のトラブルを防止

値上げではなく、“価値の再提案”を

値上げをお願いする際は、「価格」だけでなく「価値」も一緒に伝えることが大切です。

たとえば…

  • 品質向上や新素材の導入
  • アフターサービスの強化
  • 対応スピードや納品体制の改善
  • 新たな技術や仕組みの導入

「この価格には、これだけの価値が含まれています」と伝えられれば、相手も安心して受け入れてくださる可能性が高くなります。

価格交渉で気をつけたいこと

● タイミングに配慮を

決算時期や繁忙期など、相手にとっての“話しやすい時期”を選ぶのも大切です。

また、業界全体で値上げの動きがある時期なら、受け入れられやすくなります。

● 相手の事情を思いやる

「うちも大変なんです」という気持ち、相手も同じかもしれません。

相手の立場を尊重しつつ、自社の努力や思いも伝えながら、対話の形で進めていきましょう。

● 代替案を用意しておく

値上げが難しい場合には、支払条件の変更や最低発注ロットの設定など、他の方法で利益確保につなげる道を一緒に考えていきましょう。

おわりに:まずは、現状を「見える化」することから

価格転嫁は、決して“無理なお願い”ではありません。

お互いの立場を尊重しながら、より良い関係を築くための「対話のきっかけ」でもあります。

まずは、自社のコスト構造をきちんと把握し、「なぜ価格の見直しが必要なのか」を、数字で語れるように準備することが第一歩。

そして、感情ではなく事実に基づいた提案と、お客様のことを思いやる姿勢があれば、きっと前向きな話し合いができるはずです。

「うちも価格転嫁したいけど、どう進めたらいいのか…」

そんなお悩みがありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。

業種やお取引先の状況に応じた、実践的なサポートをご提供いたします。

私たち税理士が、経営の味方としてご一緒に考えてまいります。