数字で見る経営ポイント「損益分岐点分析の重要性」


はじめに

「今月の売上は昨年同月より10%アップしました」「コストを5%削減できました」――日々の数字は経営者の皆さまにとって大きな関心ごとだと思います。ただ、これらの数字だけでは会社が本当に健全な方向に進んでいるかを判断するのは難しいですよね。

そこでぜひ意識していただきたいのが「損益分岐点分析」です。これは単なる会計上の計算ではなく、経営戦略の羅針盤であり、リスク管理の基本ツールでもあります。今回は中小企業の経営者さまに向けて、損益分岐点分析の大切さと実践方法を、わかりやすくご紹介いたします

損益分岐点とは?

損益分岐点とは、売上と費用がちょうど同じになる点、つまり利益がゼロになる売上高のことです。このラインを超えると黒字、下回ると赤字になります。

損益分岐点を理解するためには、費用を「固定費」と「変動費」に分けることが基本です。

  • 固定費:売上に関係なく毎月発生する費用(家賃、正社員の給与、保険料、減価償却費など)
  • 変動費:売上に比例して増減する費用(仕入原価、販売手数料、梱包資材など)

計算式はシンプルで、

損益分岐点売上高=固定費÷(1−変動費率)

となります

具体例で考えてみましょう

例えば、製造業のA社の場合:

  • 月間固定費:300万円
  • 変動費率:60%

このとき、損益分岐点売上高は

300万円÷(1−0.6)=750万円

つまり、A社は月に750万円以上売り上げなければ赤字になってしまいます。現在の売上が800万円なら、50万円の黒字。安全余裕度は6.25%(50万円÷800万円)という計算になります

損益分岐点分析がもたらす5つの効果

1.明確な目標設定

「最低限ここまで売らなければ」というラインが見えるので、感覚ではなく数字に基づいた目標を立てられます。営業チームのモチベーションアップにもつながります。

2.価格戦略の判断材料に

値下げを検討する際、「どのくらい売上を伸ばさないと赤字になるか」を事前に把握できます。

3.コスト構造の見直し

固定費と変動費を整理することで、改善余地のある費用が明確になります。固定費を減らすと、それだけで損益分岐点を下げることができます。

4.事業拡大のシミュレーション

新規事業や新商品の導入時、「黒字になるまでにどのくらいの売上が必要か」を予測できます。リスクを定量的に把握できるのは大きな安心です。

5.資金繰りの安定化

損益分岐点を下回る期間が続くと、どのくらい資金が必要になるかを事前に計算できます。銀行融資の準備や資金計画の判断にも役立ちます。

実践で活かすための工夫

  • 月次でのチェック:固定費や変動費は変わることがあるため、毎月見直すことが大切です。
  • シナリオ分析:「売上が20%減ったら」「原材料費が10%上がったら」など、複数のケースを試算して備えましょう。
  • 部門別・商品別に分析:できれば部門や商品ごとに算出し、収益性の低い部分を早めに見極めるのが有効です。

注意していただきたいこと

固定費と変動費の分類は必ずしも完璧ではありません。例えば人件費は固定費ですが、残業代やアルバイト料は変動費的な性格を持っています。実態に即した柔軟な見方が大切です。

また、損益分岐点分析は短期的な意思決定にはとても役立ちますが、長期的な経営戦略を考える際には、市場動向や競合状況と合わせて検討する必要があります

まとめ

損益分岐点分析は、中小企業経営に欠かせない「数字で見える経営管理ツール」です。目標設定や価格戦略、コスト管理、事業拡大の判断など、幅広い場面で活用できます。

定期的に数字をチェックして、経営に活かしていくことが安定した基盤づくりにつながります。もし「うちの会社でもやってみたいけれど方法がよくわからない」といったお悩みがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。専門家として、会社の未来づくりを一緒にサポートさせていただきます